9月27日の自民党総裁選で石破茂衆院議員が総裁に選ばれた。
石破氏について、翌日の朝日新聞と産経新聞が足並みを揃えて
「女系天皇に理解を示す石破氏」(朝日)、
「前例のない『女系天皇』を排除しない考えを示した」(産経)
と報じていた。これらは恐らく、候補者同士の討論の中で小林鷹之候補から
「女系天皇を否定しないのか」と迫られたのに対して、
「大事なのはいかにして国民統合の象徴の皇室をお守りしていくか」
という答え方をした場面(9月13日)などを
念頭に置いた記事だろうか。今回の総裁選の結果には、その直前の立憲民主党の
代表選の結果が影響を与えたと見られる。勿論、自民党内の様々な政治力学もあっただろうが、
野田佳彦代表の登場は、当初は大本命と見られていた
小泉進次郎衆院議員には、大きく不利に働いた。元総理で重厚感があり、論戦も得意な野田氏を相手に、
討論が苦手で政治的にも未熟な小泉総理では、
たとえ即時解散で衆院選には勢いで勝てても、
来年の参院選までにボロボロにやられて
支持率が暴落する、と受け止められた。参院選で負ければ衆参ねじれとなり、
政権交代も視野に入って来る。
それは避けたい。
という判断が働いて、圧倒すると思われていた
議員票でさえ、僅か75票にとどまった
(事前の予想では80〜 90票の獲得が見込まれていた)。又、決勝投票になれば、失礼ながら石破氏は小泉氏、
高市早苗衆院議員のどちらが相手でも党内人気が低いので、
負ける可能性が高いと予想されていた。しかし高市候補も、野田氏が穏健保守の旗を掲げたら、
同氏はむしろ強硬保守(更に右翼)と受け取られ、
衆院選でも保守票が多く立憲民主党に流れかねない。
自民党内のそのような感覚がブレーキになったと
考えられる。これがもし、リベラル系の枝野幸男代表だったら
事情は違ったはずだ。
それでも、高市氏を支持する票が多かった事実をどう捉えるか。第1回投票でトップの票数を獲得した党員·党友には
中高年の保守男性が多いという事情に加えて、
故·安倍晋三氏が長期政権を築いたことによる
成功体験も、議員心理に影響を及ぼしているのではないか。もし高市総理が誕生すれば、安倍政治の継承を
信条とする立場から、岸田政権から引き継いだ
皇位継承問題について、安倍氏が2回にわたり
“後ろ向き”の指導力を発揮したのにならって、
有識者会議報告書の線(①内親王·女王が婚姻後も
皇族の身分を保持される一方、その配偶者とお子様は
国民、
②旧宮家系子孫男性を養子縁組で皇族とする)で
早々に押し切ろうとした可能性が高い。皇位継承問題はその意味で、今回の結果によって
首の皮一枚で繋がった、と感じている。
男系派にとっては逆に悪夢だろう。高市氏とは以前、靖国神社の応接室で、
たまたま2人だけで懇談する機会があった。
靖国神社問題について、よく勉強されていることが分かった。
これまで閣僚としても靖国神社参拝を続けておられる。
いずれ総理として、安倍氏によって中断させられた
靖国神社参拝を、是非とも復活して貰いたいと願っている。だが、皇位継承問題が近く1つの決着を
迎えようとしている今のタイミングで、
高市総理が登場するのは残念ながら歓迎できない。
たとえば高市総理が登場し、野党第1党の
立憲民主党の代表が前の泉健太衆院議員のままと
仮定した場合、少なくとも皇位継承問題については
殆ど万事休すだったはずだ。ところが、立憲民主党は野田代表に交代した。
これは一先ず最悪の危機を回避したと言える。勿論、代表選で大きな貢献をしたのが、
党内男系派の牙城「直諫の会」(=重徳グループ)であり、
その代表の重徳和彦衆院議員が新しい党役員人事で
政調会長に就任した、などという不安要素もある。野田氏は、代表選期間中の地方での発言の中で
「女系天皇は決勝、女性天皇は準決勝、
今は皇族数の確保で準々決勝の取り組み」という
趣旨の発言をされていた(9月15日)。これは問題解決を先延ばしする
スタンスと受け取られるかも知れない。
しかし、今の残念な政界の実情の中で、
代表選のさなかに公然と女系天皇という
課題を明示的に取り上げた事実は、評価できる。皇位継承問題を巡る当面の決着で、
最も重要になってくるのは、恐らく石破総理と
野田代表との合意だろう。
その場合、仮に石破氏が野田氏に歩み寄ろうとすると
(具体的には女性宮家を可能にする婚姻後も
皇族の身分を保持される女性皇族の配偶者と
お子様は皇族とするルールの採用)、
閣僚や党役員を固辞してフリーハンドになった
高市氏がどう動くか。
それに全力で敵対する可能性がある。高市氏を応援する産経新聞や
雑誌ハナダWILLなどに集まる強硬保守が、
倒閣運動を起こす場面もあり得る。
もし倒閣運動が成功すれば、次は高市総理
という可能性が高まる。高市氏は、本気で総理として靖国神社に
参拝するつもりだった、という情報がある。
秋の例大祭が近いので、参拝のタイミングとして
或いはその辺りを想定していたのかも知れない。しかし、皇位継承問題が最終的な決着を見る迄、
暫く高市総理は待って貰いたいと考えている。【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/
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