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高森明勅
2024.9.29 16:00政治

政治の新しい局面を迎え、首の皮一枚で繋がった皇位継承問題

9月27日の自民党総裁選で石破茂衆院議員が総裁に選ばれた。
石破氏について、翌日の朝日新聞と産経新聞が足並みを揃えて
「女系天皇に理解を示す石破氏」(朝日)、
「前例のない『女系天皇』を排除しない考えを示した」(産経)
と報じていた。

これらは恐らく、候補者同士の討論の中で小林鷹之候補から
「女系天皇を否定しないのか」と迫られたのに対して、
「大事なのはいかにして国民統合の象徴の皇室をお守りしていくか」
という答え方をした場面(9月13日)などを
念頭に置いた記事だろうか。

今回の総裁選の結果には、その直前の立憲民主党の
代表選の結果が影響を与えたと見られる。

勿論、自民党内の様々な政治力学もあっただろうが、
野田佳彦代表の登場は、当初は大本命と見られていた
小泉進次郎衆院議員には、大きく不利に働いた。 

元総理で重厚感があり、論戦も得意な野田氏を相手に、
討論が苦手で政治的にも未熟な小泉総理では、
たとえ即時解散で衆院選には勢いで勝てても、
来年の参院選までにボロボロにやられて
支持率が暴落する、と受け止められた。

参院選で負ければ衆参ねじれとなり、
政権交代も視野に入って来る。
それは避けたい。
という判断が働いて、圧倒すると思われていた
議員票でさえ、僅か75票にとどまった
(事前の予想では80〜 90票の獲得が見込まれていた)。

又、決勝投票になれば、失礼ながら石破氏は小泉氏、
高市早苗衆院議員のどちらが相手でも党内人気が低いので、
負ける可能性が高いと予想されていた。

しかし高市候補も、野田氏が穏健保守の旗を掲げたら、
同氏はむしろ強硬保守(更に右翼)と受け取られ、
衆院選でも保守票が多く立憲民主党に流れかねない。
自民党内のそのような感覚がブレーキになったと
考えられる。

これがもし、リベラル系の枝野幸男代表だったら
事情は違ったはずだ。
それでも、高市氏を支持する票が多かった事実をどう捉えるか。

第1回投票でトップの票数を獲得した党員·党友には
中高年の保守男性が多いという事情に加えて、
故·安倍晋三氏が長期政権を築いたことによる
成功体験も、議員心理に影響を及ぼしているのではないか。

もし高市総理が誕生すれば、安倍政治の継承を
信条とする立場から、岸田政権から引き継いだ
皇位継承問題について、安倍氏が2回にわたり
“後ろ向き”の指導力を発揮したのにならって、
有識者会議報告書の線(①内親王·女王が婚姻後も
皇族の身分を保持される一方、その配偶者とお子様は
国民、
②旧宮家系子孫男性を養子縁組で皇族とする)で
早々に押し切ろうとした可能性が高い。

皇位継承問題はその意味で、今回の結果によって
首の皮一枚で繋がった、と感じている。
男系派にとっては逆に悪夢だろう。

高市氏とは以前、靖国神社の応接室で、
たまたま2人だけで懇談する機会があった。
靖国神社問題について、よく勉強されていることが分かった。
これまで閣僚としても靖国神社参拝を続けておられる。
いずれ総理として、安倍氏によって中断させられた
靖国神社参拝を、是非とも復活して貰いたいと願っている。

だが、皇位継承問題が近く1つの決着を
迎えようとしている今のタイミングで、
高市総理が登場するのは残念ながら歓迎できない。
たとえば高市総理が登場し、野党第1党の
立憲民主党の代表が前の泉健太衆院議員のままと
仮定した場合、少なくとも皇位継承問題については
殆ど万事休すだったはずだ。

ところが、立憲民主党は野田代表に交代した。
これは一先ず最悪の危機を回避したと言える。

勿論、代表選で大きな貢献をしたのが、
党内男系派の牙城「直諫の会」(=重徳グループ)であり、
その代表の重徳和彦衆院議員が新しい党役員人事で
政調会長に就任した、などという不安要素もある。

野田氏は、代表選期間中の地方での発言の中で
「女系天皇は決勝、女性天皇は準決勝、
今は皇族数の確保で準々決勝の取り組み」という
趣旨の発言をされていた(9月15日)。

これは問題解決を先延ばしする
スタンスと受け取られるかも知れない。
しかし、今の残念な政界の実情の中で、
代表選のさなかに公然と女系天皇という
課題を明示的に取り上げた事実は、評価できる。

皇位継承問題を巡る当面の決着で、
最も重要になってくるのは、恐らく石破総理と
野田代表との合意だろう。
その場合、仮に石破氏が野田氏に歩み寄ろうとすると
(具体的には女性宮家を可能にする婚姻後も
皇族の身分を保持される女性皇族の配偶者と
お子様は皇族とするルールの採用)、
閣僚や党役員を固辞してフリーハンドになった
高市氏がどう動くか。
それに全力で敵対する可能性がある。

高市氏を応援する産経新聞や
雑誌ハナダWILLなどに集まる強硬保守が、
倒閣運動を起こす場面もあり得る。
もし倒閣運動が成功すれば、次は高市総理
という可能性が高まる。

高市氏は、本気で総理として靖国神社に
参拝するつもりだった、という情報がある。
秋の例大祭が近いので、参拝のタイミングとして
或いはその辺りを想定していたのかも知れない。

しかし、皇位継承問題が最終的な決着を見る迄、
暫く高市総理は待って貰いたいと考えている。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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